-不確かさ推定の事例- ■ 測定の目的 測定の目的は測定量の値を決定することであ る。したがって,測定は測定量,測定の方法,測 定手順を明示することからはじまる。 測定の結果は測定量の値の近似値あるいは推定 値に過ぎない。このため推定値の不確かさの記述 を伴って完全なものになる。また,測定量は実際 的な目的に対して値が定まるように定義しなけれ ばならない。例えば,金属棒の長さをノギスの正 確さで測定する場合には,金属棒を測定したとき の温度を含める必要がある。 <事例1> ■ 測定の概要 金属棒の直径を求める。 ■ 測定方法 ノギスを用いて,金属棒の直径を5回測定し, その平均を求める。 測定は,温度20℃±2℃の室内で行う。ただし, 温度はリアルタイムで測定し補正を行うものとす る。金属棒の熱膨張率は文献より,仮に28.9× 10-4(K-1)とする。 ■ 測定機器 ノギス:校正証明書より拡張不確かさ0.05a デジタル温度計:分解能0.1℃ ■ 不確かさのモデル式 この場合,測定量(金属棒の直径)Yはノギス の読みXであり,一般的にモデル式を表すと Y=X となる。モデル式は,数学モデル,数学的モデル, 数式モデル,関数モデル等いろいろに呼称されて いるが,ここではあまり抵抗のないモデル式と呼 ぶことにする。 さらに,金属棒の直径の算定式に熱膨張率や温 度の要因を考慮すると次式で表わされ,これをモ デル式とする。 ■ 不確かさの要因 (1)金属棒の直径dの不確かさ(合成標準不確か さ): (この表記はdの関数を意味しない不確かさを表す記号である。) (2)ノギスの指示値dnの不確かさ: (3)室温t の不確かさ: (4)熱膨張率αの不確かさ: ■ 直径測定の不確かさの推定式 直径測定の不確かさはモデル式を用いて次の合 成標準不確かさの式から求める(5月号p.45参照)。 ■ 要因別の標準不確かさ (1)ノギスの指示値の不確かさを求める ノギスの校正の不確かさと繰り返し測定の不確 かさを考える。 ①ノギスの校正の不確かさ ノギスの校正証明書に,拡張不確かさ0.05a (k=2)と記載されていたとする。 &建材試験センター 建材試験情報8 ’07 37 新JISたより.. 不確かさの考え方⑥.. (6.1) ここに, [a] :金属棒の直径[a] :ノギスの指示値[a] :熱膨張率[K -1] :金属棒の温度[℃] ここに, :直径の合成標準不確かさ[a] :ノギスの指示値の標準不確かさ[a] :温度測定の標準不確かさ[K] :熱膨張率の標準不確かさ[K -1] の感度係数[K/K] の感度係数[a/K] の感度係数[a・K] [a](6.2) [a] ②繰り返し測定の不確かさu rep 金属棒全体の直径の不確かさを評価するために は,中央を含めて場所をずらして測定することが 考えられるが,ここでは,便宜的に金属棒の中央 で方向をずらして5回測定したデータを用いる (表1)。なお,測定作業による不確かさは繰り返 し測定に含めるものとする。 ③ノギスの指示値の標準不確かさ (2)温度測定の不確かさを求める。 温度は,分解能が0.1℃の温度計によって測定 する。室温の変動は補正されるが,分解能0.1Kの 読み値によって不確かさが生じる。 なお,リアルタイムの補正を行わない場合は, 室温の変動による不確かさも考慮する必要がある。 このような場合は一様分布とみなし,不確かさは, となる(図1)。 ④熱膨張率の不確かさは,他の不確かさに比べて 小さいので除外する ■ 感度係数の意味 感度係数は入力量(ノギスの読み)が測定値 (金属棒の直径)に与える影響の大きさを表して いる。モデル式(6.1)を温度t,熱膨張率の 関数に変形する。 (6.1),(6.3),(6.4)式の2項目は定数項とみ る。, , の関数で表されている。これら の式の, , の係数が“感度係数”である。 感度係数は一般式では偏導関数(偏微分係数)で 表す。 つまり, , , の不確かさ, , にそれぞれの感度係数を乗じることによっ て,それぞれの要因が直径の単位aに変換され, 測定の不確かさに与える影響の度合いを示 すことになる(図2)。ここで,測定した直径の読 みの平均=32.26a,熱膨張率=28.9×10-4 (K-1)を代入して具体的な感度係数を求める。な お,熱膨張率の不確かさは除外したので感度係数 は求めない。 ■ 合成標準不確かさ 以上の結果を(6.2)式に代入して合成標準不確 かさを求める。この計算はエクセル等によるバジ ェットシートで自動的に計算してくれる。 38 &建材試験センター 建材試験情報8 ’07 図1 温度の一様分布に基づく評価 (6.3) (6.4) 回数 .. .. 1.. 2.. 3.. 4.. 5.. 合計.. 読取値 .. .. 32.35.. 32.23.. 32.33.. 32.21.. 32.18.. 161.30 平均値.. との差.. 0.09.. -0.03.. 0.07.. -0.05.. -0.08.. 0.00 差の二乗 .. .. 0.0081.. 0.0009.. 0.0049.. 0.0025.. 0.0064.. 0.0228 表1 繰り返し測定データ (K) [a] ■ 拡張不確かさ 合成標準不確かさから拡張不確かさへの変換は 信頼の水準を反映する包含係数を用いる。拡張不 確かさは U=k×ucで表す。測定結果はy±Uで 表わされる。一般的にはk=2を採用し,信頼の水 準がほぼ95%に相当すると考える。k=2とした場 合,y-Uとy+Uの区間の中にほぼ95%の信頼の 水準で測定値が存在していることを示している。 拡張不確かさを表示する場合には,それから標準 不確かさを逆算できるように包含係数kを併記す るのがルールである。 ■ バジェットの作成 以上の結果をバジェットシート(表2)にまとめ る。その手順は以下のとおりである。○内の数字 はバジェットシートの番号を示す。 (1)値の欄に校正証明書,実験データで得た標準 偏差,温度計の分解能等の数値を入れる。 (2)確率分布を決定する。 (3)値の欄の数値を確率分布で決まる除数で除し て標準不確かさを求める②③④。単位に注意 する。 (4)指示値の標準不確かさ①は,②と③の標準不 確かさを二乗和の平方根で合成して求める。 (5)①及び④の標準不確かさに感度係数を乗じて 標準不確かさをa単位に合わせる。 (6)a単位に合わせた①と④を二乗和の平方根で 合成し,合成標準不確かさを求める⑤。 (7)合成標準不確かさに感度係数(k=2)を乗じ て拡張不確かさ⑥を求める。 (8)測定結果に不確かさを加味して表示する⑦。 (文責:製品認証部 上園正義) &建材試験センター 建材試験情報8 ’07 39 .. ①.. ②.. ③.. ④.. ⑤.. ⑥.. ⑦.. 不確かさの要因.. ノギスの指示値の不確かさ.. ノギスの校正の不確かさ.. 繰り返し測定の不確かさ.. 温度による不確かさ.. 合成標準不確かさ.. 拡張不確かさ(k=2).. 測定結果の表示.. 記号.. 値 .. .. 0.005 A.. 0.0338 A.. 0.05 ℃.. 標準不確かさ.. 0.0420 A .. 0.025 A .. 0.0338 A .. 0.0289 k 感度係数.. 1 K/K.. .. .. 0.0932 A/K 標準不確かさ.. 0.0420 A.. .. .. 0.00269 A.. 0.0421 A.. 0.084 A 備考.. -.. 校正証明書より.. 5回測定.. 分解能より.. -.. -.. -.. 確率分布.. .. 正規.. 正規.. 一様.. 除数.. .. 2.. 1.. 3 =3236±0.084A( =2).. 温度の不確かさに感度係数を乗じる.. ことによって、A単位に変換する.. u( t d) = c ・t u(t) + const u( t d).. u(t).. [t ℃].. d[A].. 図2 入力量の不確かさが測定量の不確かさに与える影響 表2 パジェットシート <訂正とお詫び> 2007年5月号新JISたより「不確かさの考え方⑤」に訂正 がありました。 訂正前:P45右段10~12行目 「このとき,長期間にわたる温度変化や測定期間中の温 度変化を考慮し,温度計の分解能に起因する不確かさ は考慮する必要はない。」 訂正後:「このとき,温度計の分解能や測定期間中の温 度変動を考慮する。」