小規模試験所のISO 17025内部監査

小規模試験所のISO 17025内部監査の実施方法

小規模試験所でISO 17025の内部監査を効果的に実施するための具体的ステップを説明します。

1. 内部監査の計画

監査チームの編成

  • 小規模試験所の場合の工夫:
    • 人員が限られているため、部門間で相互監査を行う(例:化学分析部門の担当者が物理試験部門を監査)
    • 外部コンサルタントの一時的な起用を検討(特に初回の監査時)
    • 親会社や系列会社との相互支援体制の構築

年間監査計画の策定

  • 12ヶ月の監査サイクルを基本とする
  • 1年を4四半期に分け、各四半期で規格の特定セクションを監査する小分け方式も効果的
    • 例:Q1(4-6月)→組織要求事項と資源要求事項
    • 例:Q2(7-9月)→プロセス要求事項の前半
    • 例:Q3(10-12月)→プロセス要求事項の後半
    • 例:Q4(1-3月)→マネジメントシステム要求事項

監査前の準備

  • チェックリストの準備:ISO 17025の条項に基づいたチェックリストを作成
  • 前回の監査結果、是正処置の状況、顧客からのフィードバックを確認
  • 監査対象の部門や活動に関する文書・記録を事前レビュー

2. 監査の実施手順

初回会議(オープニングミーティング)

  • 10〜15分程度の簡潔な会議で良い
  • 監査の目的、範囲、スケジュールを説明
  • 参加者の役割と責任を確認

実際の監査活動

  1. 文書レビュー:
    • 品質マニュアル、手順書が規格要求事項を満たしているか確認
    • 実際の業務が文書化された手順に従って実施されているか確認
  2. 現場監査(証拠収集):
    • 試験・校正の実施状況の観察
    • スタッフへのインタビュー(例:「この機器の校正記録を見せてください」「この試験方法の検証はどのように行いましたか」)
    • 記録のサンプリング(例:過去3ヶ月の校正記録から5件無作為抽出)
  3. 特に注目すべき重要要素(小規模試験所向け):
    • 設備管理: 校正状況、保守記録、使用記録
    • 要員の力量: 教育訓練記録、技能試験の結果
    • 方法の妥当性確認: 標準操作手順書の管理状況
    • 測定の不確かさ: 算出方法と文書化
    • トレーサビリティ: 標準物質の管理
    • サンプリング: サンプリング手順の文書化と記録
    • 結果の品質保証: 内部品質管理、技能試験参加

終了会議(クロージングミーティング)

  • 発見事項の報告(不適合、観察事項、改善の機会)
  • 是正処置の期限について合意
  • 監査の成果と強みについても伝える(良い点の強調

3. 監査報告書の作成

監査報告書に含めるべき要素

  • 監査の日時と範囲
  • 監査チームと被監査部門
  • 不適合事項(該当する要求事項の明記)
  • 観察事項と改善の提案
  • 前回の不適合に対する是正処置の有効性確認結果
  • 良好事例や強み

報告書のフォーマット例

内部監査報告書

監査日: 20XXXXXX

監査範囲: ISO 17025:2017 7.17.4項(プロセス要求事項の一部)

監査対象部門: 微生物試験室

【不適合事項】

  1. 不適合No.1: ISO 17025 7.2.1.5項違反

内容: 試験法XXXX-2023の妥当性確認が完了しているが、妥当性確認の記録に責任者の承認がない。

【観察事項】

  1. 試薬の使用記録は存在するが、一部の日付記入が曖昧
  2. 標準作業手順書が最新版に更新されているが、一部の技術者が旧版を参照している可能性あり

【是正処置の要求】

不適合No.1について: 20XXXXXX日までに是正処置計画の提出を要求

【良好事例】

  1. 技能試験への積極的な参加と良好な成績
  2. 機器の保守記録が詳細に記録され、追跡可能性が高い

4. 是正処置と有効性確認

是正処置のプロセス

  1. 不適合の根本原因分析
  2. 是正処置計画の作成と承認
  3. 是正処置の実施
  4. 是正処置の有効性確認(次回の内部監査または臨時のフォローアップ監査で確認)

小規模試験所向けの効率的なフォローアップ方法

  • 月次のスタッフミーティングで是正処置の進捗を確認
  • 簡易的なチェックリストを用いた自己点検
  • 是正処置完了後の証拠(写真、更新された文書など)の収集

5. 小規模試験所のための実用的なヒント

リソースの最適化

  • 監査項目を分割し、小さなセッションで実施(1日で全てを行う必要はない)
  • 日常業務のチェックとして監査項目を組み込む(例:週次の品質チェックで特定の要求事項を確認)
  • 簡潔なチェックリストを活用(複雑で長大なチェックリストは避ける)

効果的な内部監査のための具体的ツール例

  1. 簡易監査チェックリスト:

    項目: 7.4 試験品目の取扱い

    試験品受領時の識別方法が文書化されているか

    試験品に一意の識別コードが付与されているか

    保管条件は文書化され、実際に守られているか

    試験品の受領記録に異常の有無が記録されているか

    サンプル廃棄の手順と記録が適切か

  2. プロセスフロー監査: 特定の試験プロセスを始めから終わりまで追跡し、関連する要求事項をチェック
  3. リモートレビュー: 一部の文書レビューはリモートで事前に実施し、現場監査は重要な活動の観察に集中

監査における良い質問例

  • 開放型質問:「この機器の校正をどのように管理していますか?」
  • 証拠を求める質問:「最後にこの機器を校正したのはいつですか?その記録を見せていただけますか?」
  • 理解を確認する質問:「標準物質の有効期限が切れた場合、どのように対応しますか?」

ちょっと一言

小規模試験所でのISO 17025内部監査は、限られたリソースの中で規格要求事項への適合性を効果的に確認するプロセスです。監査を単なる「検査」ではなく、継続的改善の機会と捉え、組織全体の品質向上につなげることが重要です。監査の負担を分散させ、日常業務の一部として組み込むことで、効率的かつ効果的な監査システムを構築できます。